大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(う)2064号 判決

被告人 稲垣実

〔抄 録〕

原判示犯罪事実は原判決挙示の証拠に徴すれば優にその証明ありとすることができる。所論は被告人は株式会社三和銀行新宿支店における原判示当座預金二口に関しては何等予備知識もなく、単に下の村典昭の指示に従つて、預け替え手続をやつたに過ぎないものであつて、原判決がこれを被告人が右下の村の刑事事件に関係があるものなることを認識しながら本件所為に出でた旨認めたことは事実の誤認であると主張するけれども、前示証拠なかんずく、被告人稲垣の検察官に対する昭和二十九年四月五日、同月十四日、同月十六日、及び同月二十四日付各供述調書、原審相被告人沢俊雄の検察官に対する同年四月十五日(二通)、同月二十日(二通)、同月二十一日及び同月二十二日付各供述調書、同中西政樹の同年四月十五日及び同月十六日付各供述調書の記載に徴すれば、右中西政樹は原判示の如く下の村典昭の弁護人として昭和二十九年二月二十二日勾留中の同人と面会し、同人より原判示の如く依頼を受けたので、同日原判示中西政樹の事務所において、被告人稲垣及び右沢俊雄に対し、典昭との面会の模様を伝え、典昭は、リベート(原判示水増請求と同趣旨)と池袋の土地問題で取調を受けている、リベート問題は相手方の取調は終了したが、本人の取調は終了していない、新会社(日本信用融資株式会社の意)のことも捜査当局に察知されそうだから、同会社の預金がしてある銀行の預金台帳を破棄してくれといつたが、そういうことは不可能なことで素人議論だといつてやつた、更に典昭は預金台帳の破棄が不可能ならば同会社の株式会社三和銀行新宿支店における預金はこれを引き出して判らないようにしてくれ、その手続がすんだときは、その合図におはぎ三個、梅干二個を差し入れてくれといつている旨依頼の趣旨を伝えたところ、被告人稲垣及び沢俊雄は右預金が当時典昭の取調を受けている刑事事件と関係のあるもので、捜査当局より押収されるかも判らない金員であることを知りながら、中西の前記依頼の趣旨を承諾したこと、その際沢はその手帖に右合図の品を記入したが、中西より左様なことを記載したものが、他日証拠として判るとまずい、只頭の中で覚えておくようにとの趣旨の注意を受けたので、右手帖の記載部分はこれを破棄したこと、よつて被告人稲垣は沢と共謀の上、原判示の如く有馬紀典と折衝の末、本件犯行に出でたことを認めることができる。尤も被告人稲垣が中西を通じ典昭の依頼を受くる以前においては、前記預金の性質を知つていたものとは記録に徴しても認められないけれども、前段説明の如き認識の下に本件行為をなしたものである以上、仮りにその依頼を受くる以前において所論の如く被告人稲垣に右銀行預金についての予備知識がなかつたとしても、本件証憑湮滅の所為につき犯意がなかつたとはいわれない。

(三宅 東 井波)

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